私、ジェイド・カーティスの住むこのマンションは都心の一等地に建っている。
一等地に建つに相応しい品の良い調度品。
部屋の間取りは有名な世界的建築デザイナーにより、美しく斬新でありながらも実用的な造りになっている。
また防音加工も施されているので、近隣の騒音に悩まされることもなく快適な生活が送れる。
・・・のだそうだ。
と、いうのも、私がここに住むことを決めたわけではないからだ。
友人が「いい部屋があるんだ!」というので、下見のつもりで来てみたら既に友人によって契約されていたからだ。
まぁ、いい部屋であることは間違いなく、特に不満もないためそのまま住んでいるが。
朝食を作りに向かったキッチンもその例に漏れず使い易いよう設計されているが、
私の普段の朝食はサラダ、牛乳、パン。
昼は会社、夜は大抵外食なので、実はあまりキッチンを利用することは無い。
料理は嫌いではないが使う機会にはほとんど恵まれない。
私のような人間にはもったいない気がするが、その利便性の高さは気に入っている。
しかし、今日はネコのご飯を作らなければならない。
久しぶりにコンロに火を灯さなくてはならないようだ。
昨日の様子を見る分には食欲は十分に残っているようだし、パン粥程度なら食べるだろか?
幸いまだ昨日の猫用ミルクもあるし、自分の朝食用のパンもある。
ミルクを温めてその中に細かく千切ったパン、砂糖を入れ少し入れて煮込む。
その間に野菜を切っていると声が聞こえた。
寂しい、淋しいと鳴く声が。
「…ネコが起きたのでしょうか?」
火だけ止めて寝室に戻ると布団に包まり、みぃみぃと親を呼ぶような切なげな声をあげている子ネコが居た。
「どうしたんです?私はここに居ますよ。」
ベッドの傍にしゃがむと布団の中のネコに自分にしては優しげな声で話しかける。
拾ったばかり、しかも本人には拾われた自覚も無いようなネコに、果たしてこの“優しげな声”が通じるものか・・・。
そう思いながらも無駄に怖がらせるのは逆効果だろうと、自分から出てくるまで手は出さないようにじっと傍らで声をかけて見守る。
すると、布団の端からそっと顔を覗かせた眼をきょろきょろさせ、私の姿を確認するとピタリと声が止んだ。
「すみません、知らない部屋に一人で寂しかったんですね。大丈夫ですよ、私はここに居ますから。…さぁ、おちびさんこちらの部屋にいらっしゃい。朝食にしますよ。」
布団の上から軽くぽんぽんと叩くと、ベッドに背を向け歩き出す。
こっそりと後ろを振り返ると、恐る恐る布団と私を何度か見比べたのち、布団ごとのそのそとベットから移動を始めていた・・・・が。
布団の重さに負けている。
そんなにヨタヨタフラフラ歩くくらいなら布団から出てくればいいのに。
そう思いながらネコの前を歩き先導するが、何度目か後ろを振り返りついに歩みを止めた。
そして思わずため息をつく。
結局、布団の重さに耐え切れず転んで、布団の中でもがいていたからだ。
「ほら、バカなことしてないで、布団から出なさい。」
ひょいっと布団の中からつまみ上げると抱き上げたままの子猫と共にリビングへと戻った。