華:シレネ(フクロナデシコ) 花言葉:偽りの愛・未練・しつこさ 春 5月
本当はアイツのこと、好きなくせに
お前の瞳に映るのは
…俺じゃないんだろう?
シレネ
俺の恋人は、サラサラの白銀の髪に、紫の水晶のような瞳、白すぎて病的にさえ見える肌。細くて折れそうな華奢な身体、寂しがりやで、そのくせどう甘えたらいいか分からない不器用なヤツで、そして、…俺を愛さない。
だけど、俺はそんなアイツが好きで、好きで、大好きで、それは確かに愛で。
その愛にようやく答えてくれたアイツを、俺が手放せるわけがないんだ。
たとえ、アイツに本心から愛されなくても。
俺たちの関係は思えば歪なもので。
想いの一本通行、いわゆる三角関係ってやつだった。
いや、そんな世間一般で語れるような言葉で俺達3人の関係を表すのはムリ、だな。
そんな歪な関係だから俺はこの関係がいつか終わってしまうだろうと、予感していたんだ。
だけど、以外にも俺と俺の恋人の関係は順調。
まるで、中学生の恋愛みたいに拙くて、可愛らしい恋だけど、それは確かに俺達の間で育っている。
「サフィール…」
隣で眠るサフィールの頭を抱え込み、その白銀の髪を指で梳く。
俺が好きだと言ってから伸ばし始めたその髪は今はもう、腰に届くほどだ。
そんな些細なことを気に留めてくれて、髪を伸ばしてくれたことがどうしようもなく愛しくて、サラサラと指の間を流れる髪に口付ける。
「…ぅんん……ぴお、にー?もう朝、ですか…?」
どうやら俺が強く抱きしめてしまっていたせいで起きてしまったらしい。
「ん、起こしちまったかサフィール? まだ夜だから寝てていいぞ。」
そういって額に口付けるとくすぐったそうにはにかみ笑いをする。
「うん…。おやすみなさい、ぴおにー」
そう言って、猫のように素肌のままの俺の胸に頬を摺り寄せて寝息を立て始める。
ここまで来たんだ。
ケテルブルグにいた頃は俺を避けてばかりいたサフィール。それが今は同じベッドで寝て、抱きしめても警戒されなくて、サフィールの領域にこんなにも入れてもらえるところまできたんだ。
ずっと、ずっとこうしたかった。
この髪に触れたり、抱きしめたりそんなスキンシップにさえ一々感動しそうになるくらい、ずっと想ってきた想いがようやく実をむすんだんだ。
諦めなくてよかった。
本人は否定するだろうけど、ずっとサフィールを見てきた俺にはわかる。サフィールは、もう一人の嫌味な幼馴染のことが好きなんだと。
何度も諦めようと思っていた。でも、諦めるなんて、そんなことができるほど甘い気持ちではなかったから。
思い切って告白してみた。
大好きだって、ありったけの想いを伝えたんだ!
そんなみっともなく震える俺を優しく受け入れてくれた。
正直、信じられなかった。
だってここにいればあいつが軍属である限りサフィールは誰よりも、アイツのそばで働けるから、もう俺にはチャンスなんて来ないんだなんて考えて、俺の可愛いブウサギ達に構うことが出来なくなるくらい落ち込んだんだから。
でも、今なら分かる。
サフィールはもう諦めたいんだ。ジェイドのことを。
本当は聡いサフィールのことだ。
ジェイドが自分を愛してくれないことなんてとっくの昔に気付いていたんだろう。
分かっていながらも未練がましく愛して欲しいなんて思って、一方的な愛情を与られるだけ与え続けた。自分がどれだけ磨り減ろうとも、ただ一心に愛していた。
だけど、返されることの無い愛にひどく疲れてしまったんだ。
だから、たまたま近くにいて、自分を愛してくれる俺に安らぎを覚えて、寄りかかってしまっているだけなんだと。
そんなサフィールの弱ささえこいつを構成する一部なんだと思うと愛しく感じる。
そして、そんなサフィールの宿木になれるなら、それで構わないと恋人関係ごっこのような関係を続けてる俺も大概未練がましいと苦笑する。
でも、サフィールがこの腕の中に居るうちは、いや、たとえいなくなっても、誰にもサフィールを傷付けさせない。
誰よりも幸せにしてやるんだ。
その権利が今、俺にはあるから。たとえ偽りの愛だとしても「恋人」と言う権利が。
そう思いながら、俺も目を閉じて呟く。
本当はアイツのこと、好きなくせに
お前の瞳に映るのは
…俺じゃないんだろう?