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Prologue-プロローグ-
深々と雪が降り続ける、
その港に1艘の大きく帆を張った客船が到着した。
こげ茶色のファーがふさふさしたコートを羽織り、長い髪を一括りにした男が一人
寒さに震えながら甲板からその大地を見つめていた。
到着を待てずに甲板に出て近づく大陸を眺めていたはいいが、
一際強い風が吹きつけて、この地の寒さを強調していた。
コートの襟をぐっと詰めてぶるりと震える。
それでも、船室へ戻る気はしなくて寒ささえ懐かしいと言うように耐えた。
ぶぉーという耳を劈くような汽笛が鳴り響き、極寒の大陸ケテルブルク到着を告げる。
待ちわびた瞬間がまた一つ近づいた、と感慨に耽りながら甲板から下界を眺める。
我先にと、待ちわびた地上に船から下りていく人々。
活気溢れる港の風景はいつか見た思い出の景色と寸分違わず、気分が高揚しているのが分かった。
そんな人々の人間模様を描いて、ごったがえした人の一員になるべく自分もその白い大地へと降り立つ。
降りてすぐに自分に声を掛けてきたのはこの航海で世話になった船員だった。
「おー旅人さん良い旅を!」
まさに海の男といった様相の凛々しい顔をくしゃくしゃにして満面の笑みで気さくに手を振ってくるのに、
こちらも大荷物を持った手でなんとか振りかえす。
「いえ、旅ではなく帰省なんですよ。」
「おぉ、そうかい!さぞ家族が待ちわびてるだろう!早く帰ってやんなー」
がはははと、大きな笑い声を上げて自らの仕事に戻っていった男の背を見送りながら歩き始めた。
ザクザクと踏みしめた大地に白い足跡を刻みつける。
(ああ、この寒さ、久しぶりの故郷だ。愛しの我が故郷!自分に全てを与えてくれた地!)
もう一度この地に降り立つに恥ぬほど自分は成長できただろうか。
それより、皆は元気だろうか?
帰ったらまず何を話そう。
沢山離したいことがあるんだ。
今にも走り出したいようなわくわくした気持ちだった。
不安と期待に逸る思いを胸に抱き、かつて歩き慣れた道を一歩一歩前へと進む。
長らく、待ち望んだあの場所を目指して。
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