耐え難い現実が、私の前に大きくそびえ立っています。
私の想いは誰にも届かず、省みられえることも無く、
使命とされた職務を淡々とこなす事で私の日々は成り立ちました。
しかし、私の想いが届かないことも、省みられない事も、そう悲観すべきことでも耐え難いことでもないのです。
それば、罪を負った私が背負うべきもので、当然の仕打ちです。
何よりも、私の人生は今までもそのようなものだったので、そんな状況には慣れていました。
ああ、それよりも、驚いたのは研究室に簡単に溶け込めた事です。
自分も含め研究者と言うものは自分の研究の事しか興味がないためか、
意見の衝突はあれども、研究室の人々との衝突なども驚愕するほどなく。
まるで新らしい研究者を受け入れただけと、言わんばかりに受け入れられてしまいました。
昔の私を知るものからはあの”ネイス博士”と慕われさえして。
そして、私が大好きだった譜業を弄る毎日です。
時々は皇帝だったり、大佐なんてそれは立派な立場のはずの2人が何の理由もなく此処を訪れては世間話なんかをして帰ったり。本当に平和でした。
私には、とても耐えられないと、そう思いました。
でも、私を取り巻く世界はそれだけではありません。
私の周りはそうした優しさと・・・一遍の恐怖で構成されていましたから。
研究室や、皇帝、大佐は私にとても優しいものでした。
しかし、それ以外の全ては悪意に他なりませんでした。
襲撃されたことも一度や二度ではありません。
時には大きな被害を出すこともありましたし、時には自分ひとりで解決できるような事もありました。
一歩研究室の外へ出れば兵士には憎しみの目で心が射殺され。
メイドには嫌悪の目でみられ。
大臣には疎まれ。
直接会う事は少ないけれど、多くの人々からも声にならぬほどの憎しみを受けている事を肌身で感じました。
私は罪人であるというレッテルを背負って歩いているようなものでしたから、
どこへ行くにもそうした悪意を感じました。
お前は罪人なのだ。そう訴える人の目は、私が六神将として生きた事証しのもので。
かつて仲間であった彼等が、このままならない世界を変えようとそれぞれの 想いで必死に生きた爪痕のような気がして、私は安堵さえ覚えるのです。
過去を忘れられない私という人間はいつも過去に生きていたので、過 去を彷彿とさせてくれるこの悪意を拠り所に生きているのかもしれない。私は漠然とそう思いました。
しかし、それらから私を守ろうとする物もいました。
その筆頭は私を監視する名目で目下同居させてもらっている、あの人でした。
なので、私にとって悪意はまったく恐怖ではありませんでした。
むしろ唯一私の心に平安をもたらしてくれるものであったかもしれません。
人々の悪意から私を守らなくてはならなくなったあの人と居る時間は、今までにないくらい増えました。
そして、随所に私を気遣うような、そんな仕草 を目にするようになりました。
それが私にとっての一遍の恐怖、でした。
優しさは全て恐ろしかった。
私は心の底から戦慄していました。
暖かい言葉、優しい態度、こんな私を受け入れる場所。
どれも私を酷く傷つけました。
お願いだから、優しくしないで。心の中で何度も何度も叫びます。
それでも私は言えない。絶対に。
もう甘えなどは許されないのだから。
死にたいなんて。
今が幸せだなんて。
貴方を愛しているなんて、絶対に。
許されない事なのだ。
幸せを感じる度に死にたくなるだなんて、私には耐えられない。
私は、もう望む事に疲れてしまった。幸せになどなりたくないのです。
[2回]
PR