彼の口から聞いた、あの言葉が彼の真実ならば私は受け入れられない。
受け入れるわけにはいかない。
それは今や許されぬモノになっている。
だって、受け入れたら私は幸せになってしまう。
私は今まで以上に心を閉ざし、誰の干渉も受けないように過ごす事を決めました。
あの人はもちろんですが、外界からの刺激、頓に人との関りは心に大きな影響を及ぼします。
ちょっとお礼を言われたときの幸福感や、辛く当たられたときの凹みなど。
そんな小さな心の動きでさえ、私に変化をもたらし続けるのだと考えたら・・・。
私はそんな変化を受け入れるのも耐えられなくなりました。
そんな具合に、あの後呪詛のような、あの言葉を受けてから私の心はおかしいままでした。
これはすなわち、なんらかの影響を受けた、と言うことなのでしょう。
私はそんな不安定なものを断ち切りたいという思いも相俟って一人の世界を選びました。
(実は私はその不調の原因を知ってたけれど、気づかないフリをした。)
すなわち、思い出の中に生きることを。
人によっては逃避と言う人もあるかもしれないが、こうと決めたら一直線な私は私の決断に従うのみです。
元より、”懐古主義”と揶揄されるほど自分の過去に思いを馳せる時間は多かったのだから、今までと大差はないのかもしれません。
しかし、それが仇となった。
私の記憶には、思い出したい記憶にはいつも同じ人が居ました。
私の思い出は決して楽しい思い出ばかりではない。
むしろ私の人生において楽しい記憶と言うのは多くは無い。
辛く、険しい研究の道を歩んできたことしかり、私の人柄しかり。
その上、引きこもりの音機関の偏執狂ときているものだから、
友達も多くない私に、楽しい思い出など出来ようハズもないのだ。
そんな私の一番辛く、一番楽しい思い出にはいつもあの人が居ました。
・・・つくづく、今まで何をして生きていたのだろうと、苦笑が漏れます。
一人の人間にここまで執着していたのかと。
・・・結局思い出のどこを探しても、探しても。
彼の面影をどこかに探してしまう。
それはとても辛く。
楽しいはずの思い出さえ曇らせてしまう。
遂には、思い出すことさえ私には許されなくなった。
現実に生きることも、過去に生きることもできない私は、肉体で生き、心で死を選びました。
私の最後の逃避であり、砦です。
そう生きるのは、とても楽だった。
心が生きているから辛いのです。
それさえ捨てられたら何もかも楽なのです。
最後に私は、ああ、生かされているのに、これでは贖罪できないなぁ。
そんな風に思いましたが、そもそも贖罪に生きるつもりがあったのかと問われれば微妙でした。
[6回]
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