そのとき私は、もう既に多くのものを諦めてきていましたので、それと同様に多くは望んでいませんでした。
そう、例えば自分の命であっても、必要であれば惜しくは無いほどに諦めが支配していました。
そんな中、最後に私に残った望みは、たった一つ。
”あなたの後姿を、見ていたい。覚えていたい。”
ささやか、であったと思います。その願いは。
決して難しい事ではなかった。
いつも貴方の後姿ばかりを見てきた私ですから、思い描く事等この身一つあれば十分なのです。
最後の時も、あなたの後姿さえがあれば、私はきっと満足して逝けるのでしょう。
そう思ってさえ居ました。
なのに、罪は終わらないものなのですね。
現世を断ち切れないなのですね。
それを知ったときの私の絶望と言ったら!
もう、目の前は真っ暗。
頭はクラクラするし、酷い吐き気には襲われるし。
その時にぼんやり思ったのは何故、私を生かすの?と言う疑問だけでした。
すでにこの世に別れをすっかり済ませてしまっている私だったので、
これからさて、何をどうして生きたら良いものかすっかり路頭に迷った子供のように頼りない気持ちになりました。
そして、混乱した私はその驚きのままに、誇らしげそれを伝えてきた皇帝と、どこかほっとした様子でそれを見ていた大佐を牢から追い出しました。
久しぶりに大声を張った私に彼等は驚いた様子でしたが、あの状態からの処刑回避に混乱しているだけ、
とでも思ったのか、伝えることは伝えたと、言わんばかりに帰っていきました。
実際少しやつれたような有様を見る限り今回の件で相当無理をしていたのでしょう、二人とも。
そうして、色々な事を考えながら高ぶった精神を落ち着けた私は考えました。
そして思い当たりました。これは罰なのだと。
私は望みを持つべきではなかった。
例え後姿だけであってもあの人を求めるべきではなかった。
罪人の癖に、背負いきれない罪を犯し続けたくせに、ささやかな願いくらいと高をくくっていた罰なんだと。
なにもかもを、一切を諦めてしまえばよかった、そうすればきっと・・・。
今はもう叶いそうもない”きっと・・・”の先は出来るだけ考えないようにしました。
考えてしまったら過去の自分をきっと殺めてしまいたくなる。
もう死ぬことは叶わないのに。
そんな苦しみを感じることなど無かったのに。
そして、私の新しい生活は幕を開けたのです。