子猫飼います。
「こら、サフィ、大人しくしなさい。」
「にゃぁ~。」
お風呂から上がったサフィールが水を払うために身震いする前にバスタオルで身体を包むと、クスクス笑いながら暴れる。
「みゃ~!じぇーどぉ、くすぐったいですぅ…くすくす」
サフィールにとってはこんなことも戯れの延長線上にあるようで、きゃきゃとはしゃいで逃げ回る。
「ほら、サフィール、早く拭かないと風邪引いちゃいますよぉ~」
バスタオルを拡げておどけるように脅しながら追いかける。
「にゃ!タオルおばけ、です!」
それも戯れと受けたサフィールはぺたぺたと裸足で逃げ回る。
しかし、小さいサフィールの足と大人である私とは歩幅が違う。
直ぐに追いついてサフィールをタオルに包んで抱き上げる。
「捕まえましたよ、いたずらサフィール。悪い子ですねぇ」
と言って額をコツンと叩く…
「っくしょん!!…あぅぅ…」
盛大なクシャミをされた。
「おやおや、すっかり身体が冷えてしまったようですね。」
髪を乾かしたらホットミルクを作ってあげなくては。
短く切ってしまった髪を名残惜しく思いながら撫でながらそう思った。
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あの日、私がこの子ネコ“サフィール”を拾った次の日、私は会社を休んだ。
と、いうのもそうする以外なかったからだ。
いつもの広めのベッドの上、朝日がカーテンの隙間から差込みゆっくりと覚醒する意識の中、腕に暖かな温もりを感じた。
ふかふかとした柔らかな感触。
その温かさを思わず抱き寄せて再び目を閉じようとして思い出した。
このふわふわは布団じゃない。
昨日、私が拾った…ネコ。
そう自覚すると、一気に覚醒した意識のまま勢いよく起き上がる。
私の腕の上、いわゆる腕枕で、寝ていたネコはその重力に抗えずに、ぼてっ…と布団の海に落ちてその身を丸めた。
「…落とされてもまだ眠り続けますか…。」
呟きながらそのふわふわとした耳を撫でてみる。
耳をピクピクさせてむずかる子供のようにむーと唸りながらも起きる気配は無い。
昨日の酷く怯えた姿から一転して安心しきった間抜けな寝顔。
そんな顔のほうがこのネコには似合っていると思った。
しかし、拾ったはいいが私は今日も会社があるし、このネコをどうするか…
そもそもこのネコもどこかから逃げてきたのだろう。
一つだけ分かるのはこんな高級品を持っているのは金持ちだということだけ。それを匿い続けるのは正直不可能だと感じている。
でも、持ち主に返したらきっと虐待の日々を繰り返されるのだろう。
それならば、多少窮屈でも私のこの部屋で生涯を過ごすのもよいのでは無いだろうか。
私らしくはないが、一晩面倒を見たことでもしかしたら情とういやつが芽生えているのかもしれない。
「まぁ、今はとりあえず朝食を作ることが優先ですかね。」
低血圧気味の自分には朝のこの清浄な陽の光も、凛とした空気も忌々しいものに過ぎない。
しかし、今日に至ってはなぜかそんな気分にもならず、いつも胸に開いていた穴が温かく満たされるような気がした。
そして、熟睡しているネコをおいて一人キッチンへとむかった。
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[6回]
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